『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』

凄いボリュームだった。
多岐にわたる分野で活躍した個人の回顧展ってそうそう行われるものではないから、貴重な機会だと思う。
アカデミー賞博物館の衣装や個人像の資料なんて、そうそう借りて一度に並べられるものじゃない。
原則として事前予約制だけど、キュレーターさんが当日券もそれなりに用意しているととツイートしてたので、ダメもとで行ってみた。
図録は1月から完成予定とのことで、実物を見られなかったのは残念。
キャプションは入り口で配られるリーフレットで概要が、現地にあるQRコードのリンク先pdfで全文を読めるようになっている◎

以下雑感。

資生堂の日焼け止めポスター
パルコの一連のポスター
このあたり、渋谷の何かで見たような気がする。
2019年のパルコでやってたポスター展ではない。
ハリスギャラリーか何か?何だったか。

PARCOのポスターはキャッチコピーが力強く、資生堂も文化を作ってやるぜという気概があって、そりゃあブランドだよなあと思う。
資生堂の入社面接で「男性と同じ仕事と待遇を」と主張したらしい石岡瑛子さんは、まさにそのブランドを作ってきた人の一人。
1938年生まれ。戦中だ。

本の装丁も手掛けていたし、山本海苔のパッケージも、東急のロゴも、彼女の手によるもの。

ナチス党大会やベルリンオリンピックの記録映画を製作したレ二・リーフェンシュタールとの企画。
そういう人がまだ生きて、仕事をしている時代。

「レ二の想像力はどのように危険なのか?もしこの疑問を解き明かそうとするならば、レ二を葬るのではなく、レ二の事実を冷静に検証してみる姿勢が私たちに問われていると私は考える。レ二の二の舞を、私たちが犯してはならない」
でも、ミシマや五輪といったものは、二の舞に近いものではないのか?

オペラ忠臣蔵の映像は討ち入りのシーン。
別のモニタでは華やかな打掛のバリエーションが表示されている。

『ミシマ―ア・ライフ・イン・フォー・チャプターズ』
三島由紀夫の生涯を作品と重ねて描く映画で美術監督を務めている。
日の丸の掛け軸と日本刀の前で剣道をする人々。
真っ白な玉砂利に埋もれた白い鳥居、白い伊勢神宮の本殿の前に整列する詰襟の男性たち。
四方を襖に囲まれた部屋でちゃぶ台を囲み、何事かの計画を練る(広げられた書類には日の丸が描かれている)詰襟の男性たち。
踏み込む警官、襖は床に散らばっている。
モーセの十戒の如く、割れる金閣寺。
後ろ手に縛られ、監獄の通路を奥へ歩いていく。
美しくはあるけれど。

『ザ・セル』
衣装がグロテスクさをいっそう強調している。
美しくてグロテスク。

『落下の王国』
壁2面を使って本編の映像を、もう1つのモニタでは衣装にクローズアップしたらしき写真のスライドショー表示。
真ん中には盗賊?の衣装が展示されている。

北京オリンピック開会式のアトラクションシーンが壁一面に大きく流されている。
衣装は4点。
チーフディレクターであるチャン・イーモウからの依頼。
“中国の伝統とグローバルなデザインの狭間で悩みつつ生み出された衣装”とのこと。
2万点ほどを製作したらしいので、彼女のデザインした衣装の中では最も多くの人が着用し、目にした衣装なのでは?
とくに長袍の宦官らしき衣装(白~灰色グラデーション)は、袖もスカート部もプリーツ上になっているので、布の面積たるや。

—-
たぶんPARCOや資生堂のポスターは、当時としては新しくて刺激的で、あるいは啓蒙…といったら言い過ぎだけれど、その時点での旧来の価値観を壊すようなものだったと思う。
でも、「男たちよ、女たちのために~」というようなキャッチコピーは使われないだろうし、文脈がどうあれトップレスの女性の写真が採用されることもなく、
民族衣装を着た人々を使うことで何かを喚起することも、批判される可能性がある。
それは女性の体はまず女性のものだし、異文化・異人種を他者が何かのアピールに引用する権利があるのか?という話でもあると思う。
(そして「ミシマ」が遺族の意思を含む様々な理由により日本での公開が中止になった件ともつながるのでは?)
所有すべきでない者が、所有するということは、奪うということ。
いまは「それを真に所有しているのは誰だ」と問われる時代。


北京オリンピック
■オリンピックは「その国らしさ」にこだわる必要があるのか?
■日本でやったら(2021年に開催予定なんて信じないぞ~)どうなっていたんだろう?
◇北京オリンピックで描かれた古代中国の様子が、現在の中国と繋がるものなのか、どう認識されているんだろう?
◇チーフ・ディレクターが中国人とはいえ、衣装を日本人デザイナーに任せている。逆だったら(東京五輪の衣装デザインに日本人以外が携わったら)叩かれそう。
◇中華モチーフは割と派手だけど、日本の歴史的な衣装etcで見栄えがして「我々のルーツはこれ」となるのは何だろう?
・あれは中国の人が見たらどう思うんだろうか。今の自分とのつながりを感じるもの?
・時代をさかのぼれば中国起源になってしまうし、といって軍国的なもの(を美しいと思ってしまう心が私にもある)は無理だろう。
・鎧甲冑なら派手かもしれない…?旗指物をして…馬を使うのは難しそうだね。


  • タイトル:『石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか』
  • 会場:東京都現代美術館
  • 会期:2020/11/14-2021/02/14
  • web:https://www.mot-art-museum.jp/exhibitions/eiko-ishioka/
  • 出演者:―
  • 鑑賞日:2020/11/22
  • 書いた日:2020/11/22

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